

法律で人々の困りごとを解決する仕事
弁護士法人東京パブリック法律事務所 代表社員・弁護士
NPO法人CALL4代表理事
谷口 太規さん
人がもつ権利を守るために、社会で起こるさまざまなトラブルを法律を用いて解決するのが弁護士の仕事です。刑事事件では罪を犯した疑いのある人の弁護人として、金銭トラブルや離婚などを扱う民事裁判では依頼者の代理人として、その人の権利を守るために活動します。事件・裁判だけでなく、困りごとの法律相談を行ったり、企業の法務(法律に関する業務)に携わったりもします。
―どんな仕事?
困っている一人を救済することで社会をより良くする仕事
弁護士の中にはある程度専門分野をもっている方もいますが、私は個人同士や家族間の多様なトラブルも、刑事事件も、広く扱っています。東京パブリック法律事務所は弁護士会が支援する「公設」の法律事務所。社会的弱者とよばれる方を救済することをミッションにしていて、日本で暮らす外国の方の在留資格など困りごとの相談、高齢者や障害のある方たちの成年後見に関することなども多く扱っています。また、NPO法人CALL4では、社会の課題解決につながる裁判をサポートするWebのプラットフォームを運営しています。社会には、法律を適用するだけでは救済できない問題もあるので、既存のルールを大切にしつつより良くアップデートしていく必要があります。一人の困りごとを解決することで同じような立場のほかの人も救済できるようにする、そういう役割も担っていると思います。

―仕事をするうえで大切なことは?
法律の勉強だけでなく、人間や社会の勉強も必要
依頼する人は、認知症のおばあちゃんから会社の社長まで、いろいろな方がいます。また、トラブルの内容もさまざま。できるだけ状況を理解するには、豊富な経験や知識が必要になります。例えば、給水管が破裂したトラブルがあれば給水管の圧力など物理に関することについて知らなければいけないし、外国の方からの依頼ならその国の文化や事情も知る必要があります。そのために人と会ったりリサーチしたりする時間も多い。弁護士は、法律の勉強をしていればいいということはなく、人間や社会の勉強をしないといけないのだと思っています。
―今の仕事の魅力とは?
その人の魅力に光を当てて、輝けるように手伝えること
離婚、相続、事故など、トラブルになるとき、人は人生の曲がり角にいます。曲がり角でネガティブな方に行くのか、新しい人生を歩む方に行くのか、弁護士はその場に立ち会える貴重な仕事だと思います。以前、窃盗をくり返している人の弁護を担当したとき、「今まで一番うれしかったことは何ですか」と質問をしたら、その人は泣き出し、「仕事でお客さんによろこんでもらえたとき」と。刑務所から出所したあともサポートをして、以前の仕事の技術を生かして周囲から必要とされる人に変わる様子を目にしました。トラブルだけに目を向けず、もともとその人のもっている魅力を大切にすることで輝けるようにお手伝いできるのは、この仕事の醍醐味です。


幅広い分野の案件を扱うため、事務所の書棚には、法律の専門書を中心にさまざまな本がそろえられている。

依頼者の元へ出向いたり裁判所に行ったりと、外出することも多い弁護士の仕事。ノートパソコン、扱う案件の書類をまとめたファイルなど、たくさんの荷物をリュックサックに入れて持ち歩いている。

依頼者の人生の再生に付き合えることは、自分が思っていた以上にやりがいがありました。

―今の仕事につながるきっかけは?
強い正義感をもちながらも白黒つけがたい世界の現実を目にし、意見を交わすことの大切さを感じて、弁護士に
小学校の卒業文集で環境問題にふれるような、正義感あふれる子どもでした。きっかけは児童文学。人間関係も地球の様子も本で描かれた世界と現実とはまったく違うことから、社会をより良く変えていくことに興味をもつようになりました。中学生の時には環境保護ボランティアに参加。高校のころには、環境保護をはじめ「こうあるべき」という強い社会正義を抱いていて、それを実現するため将来は国際NGOで人や地球の役に立つ仕事がしたいと考えていました。ただ、大学に入ってから、自分が考えてきた正義は本当に正しいのか、混乱するできごとに何度かぶつかります。大学在学中にアメリカ同時多発テロが起こり、何かおかしいと感じていてもアクションを起こすことの難しさも感じました。その経験を経て、卒論では社会活動を行っている人たちにインタビュー。話を聞く中で、人と人が率直にディスカッションすること、何が正しいかはわからなくても正解にたどり着こうとする活動自体は正しいこと、と考えるように。そこで、うまく話せない人を支える仕事をしたいと考え、弁護士を目指しました。
高校1年生
人と一緒に何かを作り上げることが好きで、文化祭実行委員会委員長を務める。また、人の役に立つことがしたいという思いが強く、将来は国際協力NGOで働きたいと考えるように。
大学1年め
当時開催された地球温暖化防止京都会議(COP3)を通して、環境保護が大切である一方で、産業の発展を必要とする意見があることも知り、自分の考えてきた正義について迷い始める。
大学休学中
大学2年めののち休学し、バックパッカーに。約10カ月間、アジアなどを巡る。初日に資金をすべて盗まれるトラブルに遭い、また各国でさまざまな価値観にふれる中で、正義では白黒つけがたい世界の現実を目の当たりにする。
大学5~6年め
卒論をきっかけに、人々が率直に意見を交わすことを支える仕事をしたいと考えるようになり、弁護士を目指す。2回めの司法試験で合格。
社会人10年め
弁護士をいったん辞めて、コミュニティーづくりを学ぶため、アメリカへ。大学院で1年半勉強したのち、ソーシャルワーカーとして働く。
社会人15年め
帰国後、NPO法人CALL4を立ち上げ、東京パブリック法律事務所で弁護士の仕事を再開する。

妥協しないということ。自分で「これ以上できない」と決めてしまうと、そこを越えられません。壁があっても「本当にできないのか?」と自分に問い、「進むんだ」と意思決定をする。そうすれば道が見えてきます。
―仕事を通してこれから叶えたい・考えていきたいことは?
人々の声が大切にされる社会を作るには?
弁護士は、流れた血を止める仕事です。でも、そもそも血が流れないようにしたい。それには社会の構造を変える必要があります。アメリカ留学中、日々行われるディスカッションを通して、どんなことでも人々がまず議論することが社会の強さを作ると実感しました。日本では社会課題を口にすることがためらわれる風潮がありますが、それこそが社会課題。意見が正しくなくてもいいから、「私はこう思う」と声を上げること自体が大切で、民主主義にとって何よりも重要なことだと思います。CALL4も声を上げた人を支える活動。そうした活動をこれからも続けていきたいです。

―その目標を実現する上での課題は?
自分自身が取り組むだけでなく、人に伝え、広めること
時間が足りないこと、でしょうか。最近は、自分自身が生きている間に達成できることって少ないな、と思うようになりました。自分がプレイヤーでいるだけじゃなく、もっと世の中に広げていきたい。人に教えたり、文章に書いて本にしたり、いろいろな人に伝える活動をしていかなければいけないと考えています。
すべての経験が今に応用できる、と思っています。部活でも本を読むことでもボランティアの体験でも、どんなことでもいいので、夢中になって取り組むといいのではないでしょうか。その経験で得られた学びは、将来の仕事などこれからのさまざまなことに生きてくると思います。
この仕事人と関わりが深い 学問 は …「 法学 」
「 法学 」の文理度合い
※仕事にはさまざまな学問の知識がかかわりますが、その中で代表的な学問を表示しています。